高齢者が暮らす介護施設では、火災時の被害を最小限に抑えるための「防火管理体制」が重要になります。
特に施設の責任者や現場の管理者にとっては、「防火管理者」という役職に関する知識や役割の理解が欠かせません。
今回は、介護施設における防火管理者の選任基準・必要な資格・主な業務内容、そして現場で押さえておきたい実務ポイントについてわかりやすく解説します。
防火管理者とは?なぜ必要なのか
「防火管理者」とは、一定規模以上の建物において、防火管理上必要な業務を統括管理する責任者です。
これは法律(消防法)で定められた制度で、以下のような業務を行う役割があります。
- 消防計画の作成・届け出
- 避難訓練の実施
- 消防設備の点検・管理
- 防火教育(職員への周知)
- 火気使用の監督 など
とくに介護施設は、避難に時間がかかる高齢者が多く在籍するため、防火管理者の役割が非常に重く、責任も大きくなります。
防火管理者の選任が必要な施設とは?
防火管理者の選任が必要かどうかは、施設の規模や用途によって決まります。
一般的に、以下のいずれかに該当する場合には、防火管理者を選任し、所轄の消防署に届け出が必要です。
- 特定防火対象物で収容人員10人または30人以上
例:有料老人ホーム、デイサービス、グループホーム、介護老人保健施設、特別養護老人ホームなど
※「特定防火対象物」とは、不特定多数の人(もしくは避難が困難な人)が出入りする建物を指します。
必要な資格と講習内容
防火管理者になるには、所定の講習を受けることが基本条件です。
施設の種類や規模により、必要な講習区分が異なります。
防火管理者の区分 | 必要な施設 | 講習時間 |
甲種防火管理者 | ほとんどの介護施設 | 2日(計10時間) |
乙種防火管理者 | 小規模施設のみ | 1日(計5時間) |
講習は各都道府県や市町村の消防本部が主催しており、年に数回実施されています。
受講修了後、「防火管理者講習修了証」が交付されます。
防火管理者の主な業務内容
実際に防火管理者として選任された後は、以下のような日常業務が発生します。
- 消防計画(防火管理計画)の策定と提出
- 年2回の避難訓練の企画と実施
- 火気使用器具の管理(ストーブ、電子レンジ等)
- 消防設備の維持管理・点検状況の把握
- 職員への防火教育や連絡体制の整備
形式的な選任だけでは意味がなく、実際に施設内の防火体制を動かしていく役割が求められます。
よくある現場の悩みとポイント
防火管理者として選任されたものの、以下のような悩みを抱えるケースは少なくありません:
- 「消防計画をどう書けばよいかわからない」
- 「訓練は何をすればいい?誰が主導する?」
- 「点検業者とのやり取りが難しい」
- 「現場の設備が古く、対応に不安がある」
- 「非常放送やナースコールが不安定で心配」
こうした悩みは、防火管理者一人では解決できないケースも多く、外部業者や消防署との連携がカギとなります。
特に、ナースコールや照明などの設備トラブルが火災時の避難に支障をきたすケースもあり、消防設備とあわせて一体的に点検することが望ましいと言えるでしょう。
防火管理は「人」と「設備」の両輪で守る
防火管理者は、火災を未然に防ぐための“司令塔”ともいえる存在です。
その役割を果たすためには、日々の職員教育や訓練といった「人」の備えと、消防設備や避難経路の維持といった「設備」の備えの両方が必要です。
特に介護施設では、入所者の行動範囲・認知機能・身体能力に配慮した実践的な防火計画と連携体制の構築が求められます。
まとめ
防火管理者の選任は、法律上の義務であると同時に、施設に暮らす高齢者の命を守るための大切な役割です。
講習を受けるだけでなく、施設の実情に即した防火体制をどう築くかが問われています。
避難訓練の実施や消防設備の点検に加えて、照明や通報装置なども日常的に不具合がないかを確認することで、より安心・安全な施設運営が可能になります。
防火管理者に任命された方や、施設全体の防火体制に不安を感じている方は、まずは「何が義務で、何が選択肢なのか」を把握するところから始めてみてください。